Steve Jobs氏の音楽革命
音楽チャート老舗のBillboard誌がSteve Jobs氏を表紙に掲げました。音楽専門誌にミュージシャンではない人物が表紙になるのは異例のことです。
ジョブズ氏については、各方面のメディアに追悼記事が掲載されていますが、このビルボード誌の視点は「音楽」に特化した独自のものとして異色なものとなっています。
まずは、冒頭で、楽器の演奏もしたこともないし歌も歌ったことがない人物が音楽業界に偉大なロックスター並の影響を与えた、とした上で、ジョブズ氏がデジタル・ミュージック・ビジネスの父であり、リーダーであったことを中心に回顧。各世代のiPod、iTunesそしてiPhoneの登場を振り返っています。
お、と思ったのは、「デバイスやソフトについて語る前に、忘れてはならないのは、彼が究極の音楽ファンであったことだ。単に音楽のファン、というだけではなく、音楽はどうしたらよりエンジョイすることができるのか追究していた」との下り。そして、iTunesのカタログに載せようとしていたのは、他ならぬジョブズ氏自身が聞きたかった曲であって、それがU2であり、Beatlesだったそうです。
iPodは音楽ファンと音楽の間にインタラクティブな関係をもたらした、、、アルバムの中から曲を抜き出し、自分なりのプレイリストを作ることもできるようになった。シャッフル機能は、手持ちのアルバムの中からいろんな曲を引っ張り出してくれるようになり、長い間忘れ去っていた曲を思い出させてくれることも。
また、リスナーだけではなく、アーティスト側にも様々な影響が。iTunes Storeでは1曲99セントという低価格で販売されるようになり、しかもアップルの取り分は30%、という低マージンも革命的、、、
ここまで読んで、そう、思い出しました。ジョブズ氏はビートルズをiTunes Storeに持ってきただけではなく、ワタシたちのような一般人にもそのマーケットをオープンにしてくれたことを。
iTunes Storeには、メジャーレーベルに所属していないアーティストの曲でも出品することができます。レーベルが無くても、直接販売することができる、、、それには、CD Babyのような流通革命を起こした存在ももちろん必要だったのですが、レーベルや事務所に所属しなくても、流通会社にたった39ドルの登録料を支払えば自分たちのバンドのアルバムが出品できる、、これは大革命です。しかも要した日数は2006年当時でたった3週間。Plastic Soul Bandの曲を登録した時は、その3週間が待ち遠しくて、何度もサイトを確認しにいったものでした。Storeに出たときは、相方と、思わず万歳三唱してしまったほど。(ちなみに今なら48時間で登録可能だそうです)。セカンドアルバムのWonderful Lifeは9.99ドルで販売されていますが、アルバム単位で売れると、ちゃんとこちらには6ドルちょっとの収入が加算されます。
ワタシ自身についても、単に素人の趣味にすぎないPodcastをiTunes Storeに掲載することができ(これは登録するだけだから、ホントに誰にでもできちゃいます)、四十の手習いにして初の世界デビューだ!とワクワクしたものです。ちなみにパソコンをMacにしてからは、プレインストールされているGaragebandというソフトのおかげで、とても短時間で簡単にPodcastを作成できるようになり、パソコンの買い替えやソフトのヴァージョンアップの度に出費がかさむ、という心配からも解放されました。
iTunes Storeは、「出品できた」だけでは終わらず、思いの外、世界中からの反応を得ることができました。Plastic Soul Bandの曲はiTunes UK, Europe, Australiaなどでダンロードしていただき、ほとんどの時期は海外での売り上げの方がiTunes Japanでの売り上げより多かったほどです。ワタシの弱小Podcastもアフリカ、ロシア、中国などでも聞いていただき、スウェーデンのリスナーさんからもメールを頂いたことがあり、iTunes Storeの威力にただただ驚いています。
こうして、ジョブズ氏は、音楽業界を、その気になれば、誰でも同じ土俵で勝負できるマーケットにしてくれました。全く同じ日に多くの人がダウンロードすれば、その日だけでもちゃんとチャートインできる、ということも証明されました。(企画詳細はこちらのPodcast 7:35ぐらいから。結果はこちら。) iTunes Storeという同じショップにビートルズと自分の作品が並ぶ日を誰が想像したことでしょう。
ジョブズ氏は、iPodやiPhoneのような遊び道具だけでなく、iTunes StoreやApp Storeのように自分で作った遊び道具で遊べる「遊び場」を作ってくれました。あらためてジョブズ氏に感謝すると共に、心よりご冥福をお祈りします。まあ、心配しなくても、今頃ジョン・レノンにでも会って、たくさんの報告をしていることと思いますけどねw