スウィングな世代

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我らが「おじカル」は品川イーストワンタワーのロビーで不定期に演奏会をやっている。入場無料ということもあって、つたない演奏であるにもかかわらず、いつもたくさんのお客さんが来てくれる。なかでも昭和ヒトケタ生まれ以上と思われる年輩の方が足を運んでくださるのはとてもありがたい。と同時にとても怖い。
この年代はスウィング・ジャズのリアルタイム世代であり、進駐軍が作らせたダンスホールで、生のジャズバンドの演奏に合わせて踊っていた人たちだ。難しい顔をしてジャズ喫茶でビバップを聞いていた時代以前に、踊りながらスウィング感を身につけた人たちがいたのである。
我が家にも生き証人がいる。昭和ヒトケタ生まれの母は戦後(←第二次世界大戦終了直後を意味する。もはや戦後ではない、と経済白書に書かれた昭和31年あたりまでを指すようだ)よくダンスホールに行っていた。でもその後はレコードを聞くでもなく、グレンミラーより後のことは全くわからない。そんな母がたまたまナタリー・コールを見て、「うーん、なんだかねー、こう親父さんみたいにねばっこく行かないもんかねー」と言っていたことがあった。Unforgettableの頃なので、もう随分昔の話だ。そのときワタシはまだジャズヴォーカルレッスンをはじめたばかりで「そんなもんかなー」という感じだったが、最近ビッグバンドでバッキングをやるようになってやっと母の言いたかったことが理解できるようになった。
そんなことを思い出すと、やっぱり不安になる。うちのバンドの演奏を聴いてアンケートに「良かった」と書いてくれる人がけっこういると聞くが、本当のところどうなんだろう。この冬他界した父が最初で最後にビッグバンドを見に来てくれたとき、「おまえのところが一番よかった」と言っていた。大正生まれの父は滅多にお世辞なんか言ったことはなかったが、かといってまともに受け取るのもなんだかなあ、と思う。今は聞くすべも無いが、実際はどうだったんだろうか。
たしかにウケてはいるらしい。品川のお客さんで「次はいつやるんですか?」と聞きに来る人もいるというし、地元でライブをやった時も、リハ中からご老人が来て熱心に聞いていた。たまたま客席にいたメンバーに「やっぱりいいよねえ、こういうのは」としきりに言っていたそうだ。
おそらく、今はビッグバンドのスタンダードの演奏なんて少ないし、こういったお客さんはライブハウスに足を運ぶ機会もないだろうから、たまたま耳にすると演奏の善し悪しよりもなつかしさが先にこみ上げてくるのかもしれない。どう考えてもあの世代の人たちが満足するようなスウィング感が出てるとは思えないのだが、なんだかウケてしまうのはそのせいだろうか。
でも、うかうかしていると、きっとお客さんは思い出してくる。やっぱりなんか違うぞ、と思い始めるだろう。それまでに我々の演奏がどこまでレベルアップできるのか。それともそこは年の功で、「まあ、まあ、それはいいから」とおおらかに聞いていただけているのか。どうあがいても結果的には甘えることになってしまうのだろうが、今日も一応カウントベイシーを聞きながら襟を正すのでした。

Lucy

Second Lifeに棲息しつつ、いろいろと音楽を勉強中です。詳しいプロフィールはこちら http://lucytakakura.com/about-lucy

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