エラ・フィッツジェラルド完コピ譜

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In Session With Ella Fitzgerald: Piano,vocal,guitar
(本文は英文ですが、日本語訳と解説文が別紙で挟み込まれていました。)

エラ・フィッツジェラルドのヴォーカルのコピー譜を買った。ヴォーカルの完コピ譜というのもめずらしい。CDも付いていて、コピー譜通りに別の歌手が歌ったお手本とカラオケが入っている。さらにカラオケのピアノ譜もついてたりして、かなり親切な教本だ。

普通、ジャズの譜面はスウィングしていようが、イーヴンだろうが、ドゥーダ ドゥーダ だったらドゥーもダも8分音符で書く。譜面の冒頭に、8分音符2つは2分の1拍が二つじゃなくて、3分の2拍と3分の1拍なんですよー、と書いてある場合もあるが、それはかなり親切な方だ。ところが、この譜面はエラの歌い回しの細部をすべて譜面で再現すべく、スウィングのところはちゃんと三連符で、ダダダダッと歌っているところは16分音符で書いてある。もちろんシンコペーションも、ちゃんと食っている部分の音符と次の拍の頭がタイでつながれている。そればかりか、譜面で再現できないところは、逐一注釈がついていて、「ここは音程が揺れている、シェイクしてますね」とか、やれポルタメントだ、ベンドだ、スクープだと事細かに書いてある。

なぜここまでやるのか。解説では、「エラは決して適当に歌っているのではない」と言い切っている。その証拠に、いつも同じ歌い回しなんだと。だから、あなたもコピーするときはきっちりやりなさい。シェイクは音程が悪いのをごまかすためではありません。ターゲットの音と、その隣の音をゆっくり交互に発声し、だんだん速くする、という練習をした上で、正確に歌いなさい。エラは決して曖昧な音を出しているのではないのですよ、と大変手厳しい。また、ビブラートもどんなところで使っているか、発声してから何拍目からかけているか、よく注意して聞くように、との指示もある。自分でもロングトーンを8拍のばして、5拍目からビブラートをかけた場合と、7拍目からやった場合と比べてみるように、との念の入りようだ。

よし、やってみよう。1曲目はBewitched。スローバラードだ。うーん、これなら譜面見ながら歌えるかなー。やや、しえーー、とてんでもない。よく見ると、拍のド頭から入っている方が少ない位で、ほとんどはシンコペーションになっているか、ちょっと休んでから入っているかである。そして、休むにしても、食うにしても、それは3分の1拍に統一されているわけではなく、4分の1拍であったり、まともに2分の1拍だったり、同じメロディーに様々なバリエーションが付いている。3分の1拍休んでから、次は3分の2拍のばす音、となると、お手上げだ。まるで終始聞き手のウラをかくのを楽しんでいるようだ。曲の持つ大きなグルーブのあちこちにスキあらば滑り込んでくるような歌い方。エラの甘くてツヤのある声がスルッと入りこんでくる様を解説では「チョコレートを溶かし込んだような」と表現している。

拍をとらずにぼーっと聞いていると、ほんのときたま拍のド頭から出る部分がシンコペーションのように聞こえてくる。「ときたま」がアクセントのような効果を出しているのだ。BGMで流れていたら、こんなに難しいことをやっているとは誰も思わないだろう。

誰が言っていたか忘れてしまったが、うまい歌手というのは、とても難しいことを歌いながらも、難しいことをやっているように聞こえないというのが「うまい」要素なのだ、という話を聞いたことがある。その点ではビング・クロスビーという人が一番なのだとその人は言っていたが、エラもまさしくその部類に入るのではないか。
この完コピ譜、ちょっとずつコピーに挑戦しようかと思うのだが、どこまでできるか。たとえ歌えるようになったとしても、きっといつまでたっても「難しいことをやっている」ようにしか聞こえないだろう。ジャズは自分のやり方でやってなんぼ、だろうとは思うが、このエラの歌だけは「ジャズ」を離れ、コピるだけで十分シアワセだと思う。それでいいじゃん。

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Lucy

Second Lifeに棲息しつつ、いろいろと音楽を勉強中です。詳しいプロフィールはこちら http://lucytakakura.com/about-lucy

エラ・フィッツジェラルド完コピ譜」への4件のフィードバック

  • 2005年3月28日 @ 04:33
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    Bewitchedの譜面が欲しくて
    検索してたらたどり着きました~(笑)
    まだ見つかってません…

    返信
  • 2005年4月8日 @ 21:51
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     うわー、桜子ちゃん、2週間もレスつけないでごめんなさい。ここんとこ残業続きで頭が混乱しててもうレスをつけたものとすっかり勘違いしてました。
     楽譜、「スタンダード・ジャズのすべて」全音楽譜出版社の青(第2巻)に載ってます。シンプルな譜割になっていて、ほぼそのまま使えるかんじです。間に合うといいなあ(^^;)

    返信
  • 2012年8月6日 @ 15:49
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    「ジャズ ボーカル アドリブ」で検索してたらこのブログの違う記事にたどり着いて、
    このエントリーが気になってコメントしました。
    この本に興味があり、アマゾンで調べてみたら2種類ありました。
    もし違いが分かりましたら教えてください☆

    http://www.amazon.co.jp/In-Session-With-Ella-Fitzgerald/dp/0571528325/
    http://www.amazon.co.jp/In-Session-With-Ella-Fitzgerald/dp/1859098800/

    返信
    • 2012年8月7日 @ 20:41
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      Julieさん、コメントありがとうございます。この二つは全く同じ本のようですね。上が新品、下が中古です。新品の方が値段が安いので、紛らわしいですが、、(^_^;

      この本、解説を読んでいるだけでもとても勉強になります。是非お試しを!

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