12月8日
毎年この日になると思い出すことがあります。大学に入ったばかりの年、入り浸りの学食で時々見かけたお姉さん。ある先輩がえらくご執心だったのですが、この人が文字通り目の覚めるような美人でした。ちょっと茶色がかったソバージュのロングヘア。まだ茶髪の人などほとんどいなかった時代でしたから、それだけでもちょっと目を引くのに、透き通るような白い肌に、白人の様な目。消え入りそうに細いからだ。女のワタシでもどこかに飾っておきたくなるような、本当にお人形の様な人でした。また、この人が哲学科にいたということで、さらに神秘的な雰囲気を感じさせていました。
その彼女が、1980年12月8日を境にキャンパスから姿を消しました。先輩によれば、それは「ジョン・レノンが死んだから」だということでした。1週間、アパートから一歩も外に出ず、閉じこもったままだと。そして1ヶ月経っても彼女は学校に戻ることはありませんでした。
大学というのは思っていたよりも忙しく、直接の知り合いではなかったこともあり、ワタシはそのことを気に留めなくなっていきました。その後、その彼女がどうしたのか、全くわかりません。学校に戻ることができたのか、いや、生きているのかさえも。でも、12月8日が来ると、毎年彼女のことを思いだすのです。あれから24年。ワタシは今、あのときの自分では考えられなかったような生活をしています。ましてや彼女がどうなっているかなんて、まったく、想像もできません。それでもやっぱり毎年必ず彼女のことを思い出すのです。ワタシにとって、彼女はノルウェーの森から出てきた幻の存在で、いつまでもお人形のままです。生きていたら64歳になっているはずのジョンレノンもやっぱり丸メガネの長髪のままです。自分だけがこんなにも年を取ってしまったと思うとなんだかやりきれない気がします。12月8日というのは、自分の誕生日よりも、時の流れの現実をつきけられる日なのです、、、